最近の循環器疾患の様変わりー弁膜症

医者になり入局した医局は循環器内科でしたので、医学部を卒業してからもう40年ぐらい循環器疾患の診療をしてきたことになります。その頃と現在を比較してみると、循環器内科として診療の対象となる病気は著しく異なっていることに隔世の感を覚えます。例えば弁膜症という病気を例にとると、医者になった昭和53年の時点ではまだまだ衛生環境が現在ほど良好でなかったため、A型溶血連鎖球菌感染症によって起こる急性リウマチ熱が原因となって起こる、心臓の弁膜の障害(リウマチ性心疾患)の患者さんがかなり割合を占めておられました。急性リウマチ熱で弁膜が障害されますと、心臓の弁膜が固くなったり、ひきつれたりして血液が弁膜を速やかに通過できなかったり(狭窄)、弁膜から血液が血液の進行方向とは逆方向に漏れ(逆流)たりして心不全の原因となります。その頃は今のように心臓超音波ドップラー検査で、弁膜の部位での狭窄、逆流を診断できなかったため、聴診器1本でどの弁膜が悪くなっているかを聞き分けることができることが一人前の循環器医かどうかの大切なポイントでした。
 しかしながら最近では我が国の衛生状態が著明に改善されたため、リウマチ性心疾患による心疾患はほとんど見られなくなっています。一昔前までは僧帽弁の逆流の原因はリウマチ性心疾患によるものでしたが、この頃は心不全で心臓が拡大するための逆流が多くの割合を占めるようになりました。現在の僧帽弁逆流症は、昔のように悪くなった弁膜を手術を置き換えれば済むというものではなく、弁膜逆流が発見された時点ですでに心臓の機能が低下しているため弁膜の治療だけでなく、基礎にある心不全の治療が必要であり、以前より難しい対応を求められることが多くなりました。