お薦めの小説 泉鏡花作 「歌行燈」

泉鏡花の作品では「高野聖」が有名ですが、こちらも負けずおとらず傑作です。

将来を期待された能のシテ方の名手、恩地喜多八は若気の至りで、

芸の上のいさかいから同業者である宗山を憤死させてしまい、師匠である叔父、

恩地源三郎からは勘当され、今は旅芸人をしている。喜多八はふとしたことから、

芸妓となった宗山の娘、お三重に能の手ほどきをすることとなる。

物語では喜多八がうどん屋で酒をあおる場面と、お三重が旅宿で恩地源三郎に

自らの身の上を語る場面とが同時進行する、まるで映画を見ているような、斬新な構成です。

最後はお三重が舞い、源次郎と喜多八が旅宿の2階と門口でともに謡うところが、当小説の白眉です。

泉鏡花の文章の醸し出す、なんとも言えない幻想感はまさにここに極まれりという感じで、

何度読み直したか分りません。この後、喜多八とお三重は結ばれるのでしょうが、喜多八は胸を患っており、

悲しい結末が暗示され、哀れさが胸にせまります。最近あまり読まれることが少なくなった、

この小説ですが若い方にも是非読んでいただきたいと思います。