老循環器内科医の悔恨
本年2月に芦屋市医師会がリモートで主催した研究会で、神戸大学循環器内科 田中先生の「攻める心不全治療」というお話をお聞きし日頃の勉強不足を自覚し反省しきりでした。
一般的には心不全は明らかな心疾患を認めないステージAから、心疾患を認めるステージB、心不全症状のあるステージC,心不全の治療薬が効きにくくなった、治療抵抗性のステージDの4つのステージがあります。私の理解するところでは先生のお話の要点の1つは、心疾患を認めないステージAからステージBへの進行を予防することが重要ということです。ガイドラインによれば心臓の収縮の低下した心不全についての治療については一定のコンセンサスがあります。すなわちACE,ARB,β遮断薬(以後の略語がいっぱいでてきますが、あまり気にしないでください)などのいわゆる心不全治療の三種の神器を使うというのが、現在のところ統一された見解です。ですから心臓の収縮の低下した心不全においては例え無症状であっても、前述の3つの薬を患者さんの病状に合わせて、心不全の早いステージから使っていくことが必要となります。
一方心機能の保たれた心不全においては、全身浮腫の強い時期の利尿剤以外には現状では有効な薬剤がないというのが現状です。ただ治療薬がないといっても、何もしなくて良いというわけではありません。心疾患を認めないステージAの時期でも高血圧、糖尿病、脂質異常症、喫煙、肥満などの複数の危険因子のある場合には、これらの危険因子をしっかり治療する具体的には血圧を降圧剤でしっかり下げる、糖尿病をコントロールするなど危険因子の管理をおこないステージAからステージBへの進行を予防する、遅らせるということが重要とされています。またガイドラインには載っていませんがこのステージAの時期においても、同一患者に前述のような複数の危険因子を認める場合、潜在的な左室心筋障害の改善を目的として、新しく使えることになった心不全治療薬であるARNIやSGLT2阻害薬(これを説明すると長くなるので詳細は省きます)を使用する必要があるのではとの意見も最近出ています。
医師になったころは慢性心不全といえば、心不全の症状が出てから治療するというような時代でした。田中先生のお話をお聞きして、自身の心不全の治療が時代遅れになりつつあることに気付き、老循環器内科専門医である私としても率直に事実を認めて襟を正す必要があると痛感いたしました。
私の恩師がいつもおっしゃっておられた言葉に、去年と今年を比べて少しでも自分が良い医者となっていると感じる限りは、医者を続けさせていただくというお言葉がありました。今後も新しい知識の吸収に努めたいと思いますので、皆様のお許しを得て今しばらくは医師を続けさせていただければと思います。
カテゴリー:お知らせ | 2022年3月6日