経験のある医師の利点と落とし穴
早いもので今年で医師になってから足掛け42年になります。
思えば長く医者をやってきたものだと感慨にひたることも多く
なってきました。ただ長くやってきたと言っても未だに乏しい
知識、つたない技術を患者さんのお許しを得て、今日まで何とかやっている
のが現状です。ただこのような私でも、長くやっているだけでも
何か取りえがないだろうかというのが、今回の話です。
昔、落語の古今亭 志ん朝さんが、落語の枕でこんなことを言って
いました。「皆さん伝統芸能だなどと、構えておいでですが、
大したことはありません。なあに屁のようなものでございます。」
私は医者の技術も、落語のような伝統芸能も同じように英語でいえば
アートの一種であり、共通するところがあるのではないかと考えます。
まあ私の経験など、古今亭 志ん朝のような名人を引き合いに出して
申し訳ありませんが、どうせ屁のようなものだと思います。ただ屁だ
屁と言って馬鹿にはできません。屁を出そうと思えば、芋も食わなければ
いけませんし、腸も動いていないといけませんから、それなりに大変です。
長く医者をやっていますと、患者さんを診た瞬間に何となく直感が働き
結論が早く出るようになりました。若い先生はどうしても物事を分析的に
考えるため、結論を出すのに時間がかかってしまいます。ただ直感が働く
と言ってもいい事ばかりとは限りません。直感的判断には幾分かの誤りと
独善が含まれていることは、残念ながら認めざるを得ません。このような
落とし穴に陥らないように、極力自分の判断の裏付けをとるように努めて
います。刑事ドラマでも証言の裏をとるのが大切とよく言われますね。
最近では有難いことに、インターネットの発達で診察室のパソコンで
文献を迅速に検索できるようになりました。UptoDateと言う医療情報検索
サービスを用いれば、診察室で必要な情報は直ちに確認できます。
また患者さんの症状を入力すれば、いくつもの鑑別診断がたちどころに
出てきます。このように日々の診療にはパソコン、インターネットが
不可欠な時代と時代となりました。これからは経験によって身につけた直感と
インターネットなどの新しいテクノロジーとの融合が、私のような古い医者の
生きる道ではないかと考えます。
カテゴリー:お知らせ | 2019年2月24日