医者は現場でどう考えるか ジェローム・グループマン著を読んで-恩師への手紙-

拝啓

年が変わっても寒い日が続きますが、いかがお過ごしでしょうか。先日、ご紹介いただきました「医者は現場でどう考えるか」を大変興味深く読ませていただきました。

本の帯にも書いてありますように一般の読者を想定した体裁をとっていますが、実際には自分で考えることを放棄し、マニュアルやガイドラインに頼りたがる医師が多くなったことに対する問題提起ではないかと考えます。

この本での、医療ミスのほとんどは、技術的ミスではなく認識エラーであり、認識エラーには医師の感情が影響しているという指摘は示唆に富む言葉です。最近、忙しさにかまけて患者さんに安易な病名をつけ、患者さんの言葉を虚心に聴くことを怠っていることを思い、反省しきりです。先入観を抑えて、常にニュートラルな気持ちで患者さんに向き合うことが大切なことだと痛感しました。その他、病気を一つ見つけてそこで精査を止めてはならない、ありふれた病気と考えても、非常にまれな病気を頭の片隅におく、などプライマリーケアー医にとって留意すべき点が述べられており、大変参考になりました。

昨今の医療状況は厳しさを増しています。クローニンの「城砦」という本で、病気との闘いを城砦攻略戦に例えていました。しかし最近では城砦を獲ったという高揚感を味わうのはまれです。現実は、城砦攻防戦というより、むしろ延々と続く散兵戦に近いのではないかと思います。病院での勤務と違い、近くに味方はおりません、病気はひとつ見つけても安心はできず、患者さんの問題は山積しています。開業医もなかなか大変ですが、年齢を重ねたこともあり、以前よりは感情のコントロールは上手になったと感じます。家族の助けも借りて、毎日どうにかやっております。

禅で、不立文字という言葉がありますが、やはり医学の習得には純粋な科学と異なり、言葉で伝えられない側面があることを、この年になると痛感します。米国と言えば、データに基にしたアルゴリスム重視の医学が有名ですが、医学は理屈だけではないという筆者のような視点が出てきたことは注目に値すると思います。

最後になりますが、ますます寒くなっております。くれぐれもお体に、お気をつけられますようお願いいたします。今後とも、何卒ご指導よろしくお願いいたします。

 

敬具