令和の時代を迎えるにあたって 再掲
この5月で新天皇が即位され、令和の時代が始まりました。前回、昭和から平成に変わった時は世の中全体が何となく重苦しい雰囲気に包まれていましたが、今回は日本全体が新しい令和の時代に期待する、華やかな雰囲気があるように思います。日本の問題は少子高齢化と言われて久しいですが、別の観点から見れば、国家が成熟してきているとも言えると思います。バブルの時代のような、行け行けドンドンのような派手さはありませんが、現在の落ち着いた社会自体はそれなりに評価できるのではないかと考えます。こう思うのも年のせいかもしれませんが。
少子高齢化と言えば最近、当院の受診者は以前に増してご年配の方の占める割合が増加していると考えます。そのため平成の時代もそうでしたが、これからの課題としてご高齢の方をどのように診るかということが重要と考えます。
先日、救急医学の領域でご高名な岩田充永の講義をお聞きする機会がありました。
先生のお話では昨今の高齢者の救急患者の特徴を一言でいえば、「あいまいさ」だと
いうことです。例えばこの数日急にせん妄状態となり夜中に騒ぐ高齢者が、救急外来
に搬送されたが、よく調べてみると実は心筋梗塞を起こしていたということがあった
そうです。何故せん妄状態になったかと言うと、心筋梗塞で脳の血流が低下したことが
原因と考えられます。このようにご高齢で急に重篤な状態となられた場合、その病気に典型的な症状をきたさないことが良くあります。高齢者の急病患者は、症状、身体所見を含め、非典型的であり、加齢による身体能力の衰えなど、いくつもの要素が複雑にからんでおり、なかなか一筋縄でいかないと言うようなお話でした。
私も含めて医師は患者さんを診察し、その時点である程度、病名の見当がつくとその病気の解決に向かって一散に走ることは得意です。例えて言えば、自分の持っている方程式に数値を入れれば、答えが勝手に出てくると言うような感じです。しかし最近はこのパターンが通用しないことが多くなってきました。私を含め医師は出発の時点で病名や、高齢者の諸問題の回答が見えない状態では、思考停止に陥る傾向があると思います。
先日も自宅で介護をしておられる方でこのような例がありました。高熱、確か38度以上だったかと思います。往診してみますと診察所見では何か重篤な感染症が推定されました。その後病院で精査していただいたところ、腎盂腎炎であることが分かりました。病状としては入院の適応ですが、物事はそう簡単ではありません。病院に入院させ、感染がコントロールされたとして、入院をさせることにより、その方の日常生活はある程度低下することを予測する必要があります。入院して食事摂取が低下したとき、あるいはそれまでトイレに自力で行っていたのに歩けなくなったときどうするか。退院後の自宅の環境をどうするのか、あるいはお家の方の負担を減らすため、デイケアは週に何回ぐらい行っていただければ良いかなど、考えないといけないことはいくらでもあります。
高齢の方の問題は複雑化しており、なかなか医師個人の力だけでは解決法が見えないということが多くなっております。しかしこのような状況はますます多くなっており、思考停止に陥っている暇はありません。これからは問題の解が見えないからといって投げ出さずに、ご家族やケアマネージャーなどとともに、とことん考え抜く、ない知恵を絞りだすということが大切と考えます。医院である以上収益を度外視することはできません。ただこの場合、いたずらに収益を上げようとするのではなく、高齢の方が有する複雑な問題に、真摯に向き合い解を求め続ける姿勢が、患者さんや、ひいてはご家族の満足度につながり、結果として収益に資するのではないかと考えます。患者さんやご家族といかにWin Winの関係を築けるかが、今後の医院経営の重要なポイントになるのではないかと思います。
実は1年ぐらい前に在宅の件数が減った時期があり、悩んだことがありました。その原因については不明でしたが、在宅医療の潮目が変わってきたということは確かでした。その時期、おそらく当院のような在宅支援診療所以外の、今まで訪問診療をされなかった先生方が在宅医療に参入してこられ、パイの分配が減ったことが一つの原因ではないかと考えました。ただその状態の解決法については、1年近く考えつきませんでした。しかし最近この問題について一つの解が見つかったように思います。おそらく在宅医療で患者さん、あるいは患者さんの家族が我々に求めているのは、通り一遍の対応ではなく、もっとしっかりと自分たちの問題に、コミットして欲しいということではないかと想い到りました。このことに気付いたためか、お陰さまで在宅患者数もすこしずつ増えてきました。
時代は平成から令和に変わり、医師としても思考の転換が求められていると思います。我々医師も従来の考え方に留まらず、時代の変化に対応する必要があります。最後に、ドイツの巡礼の歌にこんな一節がありますのでご紹介させていただきます。
「勇気をもって未来を、感謝をもって過去を見よ」
“ Schau mutig nach vorne und dankbar zurueck.“
平成の時代にいただきました皆さまのご厚情に感謝をしつつ、これからも勇気を持って、自らの意識改革に取り組んでいきたいと思います。
カテゴリー:お知らせ | 2019年5月19日