インフルエンザの治療薬
例年、正月明けに学校が始まるとインフルエンザの流行も極期を迎えます。すでに学生の間で流行しているインフルエンザが、長い休みの間に小中、高校生からお家の方に感染することが原因のひとつとされています。
インフルエンザの治療薬は発症してから早期に治療を開始しないと効果が少なく、出来るだけ早期に(発症後48時間以内に)投与を開始する必要があります。そのためインフルエンザの診療ではいかに早期に診断するかがポイントになります。専門家によれば、本邦で諸外国に比べて、インフルエンザ治療薬の投与が早期になされることが、日本での死亡などのインフルエンザ合併症の少なさの原因ではないかとのことでした。皆様もおかしいと思ったら、速やかに受診してください。また発症後48時間以上たっていても、インフルエンザ確定または疑い症例で、入院が必要になるほど重症な場合は抗インフルエンザ薬による治療が推奨されるとの報告があります。
現在インフルエンザの治療にはいくつかの薬がありますが、当院での治療薬の使い分けについて説明致します。分かりやすいように薬名はすべて商品名で表記させていただきます。昨年、久しぶりにインフルエンザの治療に新薬(ゾフルーザ)が使えるようになりましたので、この薬の特徴についても述べてみたいと思います。
まずタミフルですが、この薬は現在のところインフルエンザ治療の中心となっていることは異論がありません。一日2回5日間内服していただきますが、大抵の方は2回分程度飲めば熱が下がって楽になるような印象を持っています。ほとんどの方はタミフルで治療可能ですが、10代の方ではインフルエンザ治療薬投与後の異常行動について配慮する必要からイナビルという吸入薬をよく使います。少し重症で確実な治療を必要とする場合や、経口摂取が困難な場合には、点滴のラピアクタを使います。ただこの薬はタミフルと効果に差がないとされており、院内で感染を広げる可能性があることから、医院でこの薬を点滴することは少なくなってくると思われます。
最後に昨年より使用可能となったゾフルーザについて述べます。この薬は1回のみ内服すればよく便利です。さらに従来までの薬は体内でのインフルエンザウイルスの増殖を抑えるのみで、ウイルスを減少させる効果がなかったのに反し、この薬は体内でのウイルス量を減少させます。データ上は、投与した翌日には体内のウイルス量が著明に減少し、他人に感染する危険が一気に低下するとされています。ただこの薬の感受性低下につながるウイルスの変異が起こると、ウイルス価の再上昇や、症状が遷延する可能性が指摘されています。さらに残念ながら感染後、解熱するまでの時間は従来のインフルエンザ治療薬と差がないとされています。今後この薬を使うべき場合としては、免疫的な抵抗力の低下が疑われる方、例えばご高齢の方、あるいは糖尿病、慢性閉塞性肺疾患、慢性腎臓病などの持病をお持ちの方などに考慮する必要があると考えます。ここからは先日のインフルエンザについての研究会からの受け売りですが、どうもタミフルが効かないけどゾフルーザは効く、あるいはその逆の症例があるということです。ゾフルーザは昨年かなりの期待をもって発売されましたが、現在では従来の抗インフルエンザが効かないときの、一つの選択枝と考えるのが妥当ではないかというのが、専門家の見方です。
以上、インフルエンザ治療薬について説明させていただきました。何か質問がありましたら気軽に院長にお尋ねください。
参考文献
山本舜悟:かぜ診療マニュアル、日本医事新報社、第3版、2019
カテゴリー:お知らせ | 2019年12月26日