神戸市東灘区(甲南山手) 内科・循環器内科 高血圧・糖尿病・高脂血症・心不全


つじもと内科・循環器内科

当院における新型コロナウイルス感染症治療について

新型コロナウイルス感染症は本年5月に5類感染症になったとはいえ、いまだに患者さんの受診が絶えない状態です。特にお盆明けには久しぶりに、発熱外来での受診依頼の電話が鳴りやまない状態が続きました。今回、令和5年8月に新型コロナウイルス感染症COVID-19診療の手引き第10.0版が刊行されたことを機に当院での新型コロナウイルス感染症治療につき整理してみたいと思います。

 ただ最初にお断りしておきますが、当方は決して感染症の専門家ではありませんので、あくまでも現在まで患者さんを治療してきた中での個人の感想であることにご注意ください。 まず患者さんが最初にお出でになられたときは、初期に患者さんの発熱、咽頭痛、鼻汁などの症状にしっかりと症状を抑えるための対症療法をしっかり行うことに気をつけております。病気の初期に対症療法をしっかり行うことが、患者さんの信頼感や満足度に大きな影響を及ぼします。発熱にはロキソプロフェン、アセトアミノフェンなどの解熱剤を投与します。また上記2種類の解熱剤ではしっかりとした解熱が得られないことがありますので麻黄湯、小柴胡湯加桔梗石膏などの漢方薬を積極的に投与しております。また時に咽頭痛が非常に強いかたがおられ、このような方には後述するエンシトレルビル(商品名:ゾコーバ)の投与を考慮します。

 次に抗ウイルス薬について説明させていただきます。当院での新型コロナウイルス感染症治療の守備範囲は具体的には軽症~中等症Ⅰ(酸素飽和度93%以上)かつ自宅療養や施設での療養することが可能な方ということになります。この中で基礎疾患や生活習慣に重症化リスクのある方については禁忌のないかぎりは、積極的に重症化予防効果を有する抗ウイルス剤を投与するようにしています。重症化因子としては糖尿病、慢性腎臓病、喫煙、肥満などが挙げられます。重症化とは入院や生命に関わることがらが起こるということを指します。

 重症化リスクのある場合に当院では抗ウイルス剤の点滴静注に対応しておりませんので、処方できる薬剤としてはニルマトレルビル/リトナビル(商品名:パキロビッドパック)とモルヌピラビル(商品名:ラゲブリオカプセル)の2種類です。当初はニルマトレルビル/リトナビルは薬物相互作用の点から併用禁忌が多く、ニルマトレルビル/リトナビルが投与出来ない場合にモルヌピラビルを投与するという流れになっていました。ただ最近は併用禁忌薬がある場合でも、禁忌薬を可能であれば中止し、ニルマトレルビル/リトナビル投与終了4日後以降に投与するというような運用が可能とされております。ちなみに当院では同薬が禁忌薬のため投薬不可であったということは1例もありません。米国NIH(2023年4月)のCOVID-19に対する抗ウイルス剤の推奨度でもニルマトレルビル/リトナビルが強い推奨、モルヌピラビルは弱い推奨であり、モルヌピラビルはあくまでもニルマトレルビル/リトナビルが投与できないときの代替手段という位置付けと思われます。

 最後に重症化リスクのない方の抗ウイルス治療について説明させていただきます。現在、重症化リスクのない新型コロナウイルス感染症に対してエンシトレルビル(商品名:ゾコーバ)が使用可能です。この薬は治験データによれば新型コロナの症状(倦怠感、疲労感、体熱感、発熱、鼻汁・鼻閉、咽頭痛、咳)が軽快するまでの期間をプラセボに比較して24時間短縮させたとしています。一般的に重症化リスクのない方は自然に回復する可能性があり、24時間早く症状が回復するということに患者さんがどの程度メリットを感じられるのかという疑問がありこの薬の立ち位置はいまのところはっきりしておりません。ただし対症療法を行っても高熱、呼吸困難、強い倦怠感、咳症状、咽頭痛などの症状のある場合には投与を検討することと、今回改訂された新型コロナウイルス感染症COVID-19診療の手引き第10.0版に記載されております。またこの薬は妊娠しておられる方には禁忌であり、特に若い女性への投与の際には十分注意する必要があります。

 以上、現在までの当院での新型コロナウイルス感染症治療の現状につきご説明させていただきました。

カテゴリー:お知らせ   |   2023年8月30日

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