神戸市東灘区(甲南山手) 内科・循環器内科 高血圧・糖尿病・高脂血症・心不全


つじもと内科・循環器内科

シニア医師の映画鑑賞ブログ 「ヨーロッパ新世紀」

先日、元町映画館で「ヨーロッパ新世紀」を観てきました。ルーマニアのクリスティアン・ムンジュウがトランシルベニア地方の小さな村で起こった移民問題にかかわる対立を描いた作品です。冒頭から小さな男の子が登校途中の林で、見てはならないものを見てそれから口をきけなくなるというところから始まります。見てはならないものとは、関係なくて余談ですが登校路に熊が出るというのも驚きです。トランシルベニア地方というのはドラキュラ伝説と関係あるということですが、映画自体はドラキュラと関係はありません。ただ映画のトーンは暗く、なにかおどろおどろしい一皮むくと、何かもっとおぞましい何かがが出てきそうな場面が続きます。

 町のパン工場がアジアからの外国人労働者を雇ったことで、村人との間に軋轢を生じます。SNSで危害を加えるとの恫喝があり、実際にアジア人労働者が焼き討ちに遭ったりします。村人の訴えで、村の会館で村人と関係者間で話合いがもたれます。このシーンがこの映画の見どころです。映画の宣伝によれば17分間の長回しとなっていますが、息つくひまもない展開となります。映画の後で配給元の活弁シネマクラブの担当者のトークショーがありましたが、この話し合いの場の撮影には相当の日数をかけたということで、さらに列の後ろの出演者の緊張感を維持するため、出演者の前に鏡を置くなどの工夫がされたそうです。EUの政策にのっとり移民を推進する立場、古くからの多民族の社会で軋轢を繰り返してきた社会にさらにアジアからの移民を受け入れることに対する村人の不安、怒りなどの主張を映画では延々と克明に描写します。そのなかでは移民を推進する工場側の偽善のようなものも透けて見えてきます。普段は取り繕っている善良そうな村人の本音と心の闇も見えてきます。映画は移民問題をどうするかということに明確な立場をとっておりません。ただ現在このルーマニアの村で起こっている問題を、これでもかこれでもかと突き付けてきます。この映画はルーマニアの村で実際に起こった事件を題材にしているとのことですが、今後何年か経って日本にも同じ問題が起こらないという保証はありません。そのときまでに我々も何等かの答えを用意しておく必要があるのではと考えさせられました。

https://rmn.lespros.co.jp/  ヨーロッパ新世紀

 

カテゴリー:院長のひとりごと   |   2023年10月29日

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